私のロシア(Моя Россия)

クドリャフカを知っているか

自分が初めてロシアに興味を持ち始めたのは18歳の頃

大学に受かって意気揚々として2,3ヶ月経ち

何事もないことにも夜眠れないことにも慣れた頃

PCゲームを貪っていてたまたま出会った

画面上に映し出された異質な点と線に魅力を覚えた

アラビア語ヒンディー語のような温帯気候からくる流線的な記号とは違って

いかにも寒帯気候らしい角張った、寂しく、にも関わらず滑らかさを持つ色めきを覚えた

人の本質を突く記号だと思った

彼女の発する「ヤーリュブリューティビャ」という言葉のどことなく色めき立つ雰囲気にますます興奮した。

調べるとヤーが私で、リュブリューが愛している、ティビャは身近な人向けの「あなた」を意味するそうだ。

文法によればヤーの後にティビャが来てもリュブリューが来てもどちらでもよくて、その文章において強調したい点をヤーの後に置くそうだから、この場合は日本語で言うと「私は"愛している"あなたを」、になる。

これが逆にヤーティビャリュブリューとすれば「私は"あなたを"愛している」となるのだ。この意味のわからなさに私は興奮する。

そこで私はこの不可思議な存在についてますます学びたいと思った。

まずはその日のうちにアーベーブェーゲーデーと続くキリル文字と称されたそれについて学んだ。

ネットの海でしか拝み用のないダーという、AAで口を表現する代わりに使われる記号にも触れた。

それまでの常識がほとんど通用しない、めちゃくちゃに意味不明なそれがますます色めき立った。

1日でキリル文字とその発音を暗記すると、次は数詞、人称などの基本単語学習だ

英語学習で培った語学の学び方が役に立つ

ヤーが私、彼・彼女はオンとアナ。彼らはアニ(忘れていた)

ダーがイエス。ニェットがノー。

少しずつ原型を保ててくるにつれ、ロシアそのものに関心がいく。

ロシア文学というものがあれば、地政学というものもある。プーチンという意味のわからない大統領もいるし、あの広大な土地にそもそも数億人が住まわれていて、プーチンという象徴がいるだけで統治されているという現実に、21世紀かこれ?と思わざるを得ない。

ますます意味がわからなくなり、YouTubeでロシアの動画を見始めると、これもまためちゃくちゃで、熊はペット、死ぬことは全く木が倒れるのに同じという具合で、まるでローマ帝国時代の奴隷のようなメンタルだと思った。

同時に大学にロシア語やロシア文学ロシア映画に関する講義があり、それらを全て一気に学んだ。

機械仕掛けのピアノのための未完成の戯曲には最高に意味不明さを覚えたし、タルコフスキーの意味わからなさについても魅力を覚えたし。

ドストエフスキーに関しても、また6行で済む話をなんで殊更に丁寧に話すのだろうと思った。地下室の手記には自分と似た歪んだ性格、対話不足を共感したし、車が冬季に凍るとウォッカをぶっかけてエンジンの氷を溶かすという日常動作に笑った。

その後も私のロシア熱はすごくなり、同時期にやっと彼女ができたにも関わらずそっち放ってウラジオストクに行ったりもした。

ウラジオストクは「DARKER THAN BLACK 流星の双子」というアニメの舞台にもなった場所だ。監督の岡村天斎は私の大学のOBであったから、ますますシンパシーを覚えると、そのOPと同じ場所に行きたくなった私は、急遽6ヶ月でロシア語を最低限学んで(現地人は全く英語が通じないと聞いたので)ロシア大使館の本当に人を一人は殺していそうな外交官によりビザを渡され、ドキドキしながらも飛行機に乗った。

飛行機に乗る前のターミナルでは「マム、スマトリー」と子供が喋るのを聞いて、「あ、これはお母さん見て、だな」と満足した。

トランジットでは男子と女子のトイレの違いに気づかずに、女子トイレで用を済ませた後に入り口で女性と出会して「Wow」と言われたのにも記憶が鮮明である。すみません。

トランジットでカバンの検査をされる時「スームカ」と不貞腐れた顔で女性に言われ「スームカ?」と習ったことのないその単語に怖気付くと、3回目くらいでようやく「かばん」を指さされたので、こうやって言葉が身につくのだと思ったし、一つのことを極めるにはやはり一人生じゃ足りないと思う。

ウラジオストクについてからも楽しい思い出は多々あるが、今はそれが話したいわけではない。大学内の文学部露文科に転科したいとも思ったけれども、自身の才能を信じられなくて(というか勉強が苦手で)勝手に諦めた。

 

ロシアが今危険だ。友人数名が世界史に非常に長けていて(東大・京大生・・・)、彼らの話すロシアがますますこのロシア熱を久しぶりに再加熱してくれたのでこうして文字をすでに2000字ほど綴ったのだが

 

本題としては、ロシアが大変危険な状況にある、ということだ。

ひいてはウクライナ東部、キエフ。ドイツで関わったあの小さく健気で気丈な女性は元気にしているのだろうか。彼女が本当にウクライナキエフ出身であったのかは不詳だ。

ともかく友人の言葉を借りていうならば、(それしかできない)

帝国主義的なロシアという大国(まあまず現時点でプーチンが統治していることが凄い)、欧米列強というグローバル同盟を武器に戦う二項対立関係が現状だと思う。

個人的には、ロシアが主権国家として保てていることがそもそも凄いし、それを実現させている政府には関心があるものの、その体制が21世紀まで存続していることが再構築の観点から見てそろそろ課題になりそうなことを思う。

北朝鮮や、中国も個人主義的だが、彼らのように危なっかしい国でありながらも、戦争を厭わないのは、あまりに21世紀的ではないと私は思う。

そんな風に仕事放って思うが、私には関係なかった。

ただ、私はロシアという国の古びた雰囲気や、排他的、ニヒル、諦めのついたところが大好きで、これからも外交官として勤められるならロシア?いやそれは流石に、という立ち位置から彼らを眺めている。

時々プルーストもロシアらしく思うのだが、彼はフランス人のようだ。