夢は左右反転している

林くん、これ以外持っている案件は無いんだよね

はい

自由が大切なので

やりたくないことをやらないようにしてます

納税が出来なくなるまでは

今のところやりたくなるものってこれくらいです

 

 

そっか

週3日くらいは働いてもらおうと思っていたけど

今日の感じ、吉田くんのとこは今入れそうになかった

まずは最低2万円、週2でどう

 

 

そですね

まあそれくらいがリアルな感じだなて思います

 

 

ではそれで

詳しいことは吉岡と話すんで

来週にもう一回相談させて

 

 

わかりました

 

少年はノートPCを閉じる

視界が部屋の方へ向けられると同時に

足元を包む心地よい羽毛の温もりに

夢見心地になってしまう

 

 

夢の中で見たカラスのことを思い出した‥

 

 

 

 

 

 

僕の部屋はアパートの3階にある

高さ的に、窓越しに黒い電線がよく見える

目の前を平行線のように歩く

 

 

カラスの声が聞こえた

ベランダの方へ目をやると

カラスの群れが

 

ブルーシートで出来た袋が

電線に引っ掛っていた

5羽のカラスが

その中に入っているらしい残飯を頬張っている

 

 

僕は恐怖を覚え

部屋の窓をカーテンで遮る

カラスに見られる前に

部屋の隅に置いてあるギターなんかを窓に立て掛けて

こっちに飛んでも部屋に入らないようにする

やつらとの距離はほんの4,5mだ

 

これは夢だ

こちらが変なことをしようものなら

やつらが襲いに来るかもしれない

 

それにしても異様だ

カラスたちが人間に似た表情で食事にありついている

 

しかし、やつらにバレる

そりゃあそうだこの距離だ

 

やつらは警戒をし始めた

 

僕は必死にカーテンで遮って

やつらの見えない布団の中へ逃避した

 

少し落ち着いたと思うタイミングで布団を出ると

カーテンの隙間から外を覗き込んでみる

 

やつらがいない

どうも下の方へと飛び始めていると認識すると

僕はさらにカーテンを広げ

ベランダに身を乗り出し下の方を眺める

 

すると

狭い路地を跨いで自分の建物の対面にある

平屋に住むおばあさんが洗面器を持って外に出ていっていた

 

その姿は羅生門の婆を彷彿とさせる髪の乱れや

皺、カピついた髪などを持っていて

酷くみすぼらしかった

 

また、その隣に全裸の小さな男の子もいた

なんとやつらにパンを与えていた

 

夢なので許せると言えど

現実には鳩や小鳥にしかあげないだろ

と思いつつ少年はコッペパンのようなものを

カラスに向けて彼の拳くらいにぶっちぎってから投げ与えている

 

カラスが投げ捨てられたパンを食べる

 

彼は羅生門婆の家の住人ではないだろう

きっと平屋の右隣にある砂利で出来た道のりの先にボロい家があり

そこに住む貧しい一家なのだろう

 

カラスにパンをやるとは

げにまこと信じがたい光景だ

貧しさとは品性も貧しいのか

と、批判めいた言葉で僕はそいつらに観察眼を注いでいると

 

 

僕の背後から

階段を駆け上がるドンダンダン、という勢いのよい音が聞こえてきた

 

ははーん、さては大家さんが怒って

私に共感を求めに来たのだろう

 

 

部屋にピンポンの音が鳴ると同時に

その人は玄関を開け勝手に部屋へ入ってきた

 

大家さんかと思ったら

昔通っていた就労施設でお世話になったかわいいおばさんだった

夢とはなんて都合がいいのだ

思い出しやすい人が出てくるものだな

 

容姿はブルドッグのような難しさを持ち

しかし内面のチャーミングゆえかわいい

サイズは小さめで、たぶん僕と15cmぐらいの差があるのだろう

抱きしめるとすっぽり収まるくらいのサイズ感だ

 

 

林くん!大変!

 

どしました?

下のカラスの事?ひどいですね、なかなかにあれって

ごみ処理とか誰にやらせるつもりなんだって。

 

 

え?そうなの?それはわからなかった。

それより、なんかあの隈さん、ほら、林くんが好きなハンバーグ屋さんの。

会いたがってましたよお

さっき駅のスーパーで会ったの

 

 

そうでしたか、なるほど

 

 

隈さん、林くんのこと好きすぎて毎日林くんが来て欲しいからって、いつも林くん用に料理を作ってるんですって

 

まじですか。それはそれは

なんともありがたいような申し訳ないです

 

だからさ、たまにでも顔見せたらどう?

 

 

 

 

林く〜〜〜ん!!!!

 

長いコック帽を被って

オネエにも見える女性らしさを兼ねた

中年男性の隈さんは

僕がその店、と言っても屋外レストランだが、

に赴くやいなや、距離にして20m以上離れている僕の方へと一目散に駆けつけてきた

 

会いたかったよお!!!あけおめ!!

 

 

あけおめです、隈さん

元気にしてますか

 

 

メリークリスマス!!!

 

 

(そうか、クリスマスにも顔を出さなかったから。。)

すみません、その説は

メリークリスマスでした。

 

 

私と隈さんは周りのお客さんに目もくれずにハグをする

スペインの情熱的挨拶とも取れるそれは

居心地の良いものに感じた

 

両腕を精一杯に広げ

大男と小男が抱き合う

 

一見して気持ち悪い図だが

それでもなにか暖かさを孕んでいるような

そんな心地がした

 

そうそう。それでね

と隈さん会話を始めようとした時

 

お!林くんじゃないですか!!!

 

右奥のテーブルに座っていた男の人が叫んだ

その人の隣で食事を済ませてゲームをしていた根暗な子2人が、18歳といったところだろうか、僕の方を釣られてみてしまっていた

 

 

林だって、何言うんだろ

こいつ

 

そんな視線を感じ僕は緊張のあまり夢を改変してしまうような心地を覚えていたが

実際それが筋書き通りのものだったかは決してわからない

 

 

林くん!!すごいね

久しぶり、今何してるの?

 

 

いま、そうですね

なんとか、2万円の入りが決まって

頑張ってはいますけど

なかなか渋いもんですね

 

毎日ここのハンバーグ、ないし日替わりのポークソテーを食べに来たいんですが

残念なことにその財力さえもなくて。。

 

 

その男の人は

顔が見えなかったが

僕がデキる側の人間と確信してくれている

 

根暗な子の反対にいた誰かに、女性だろうか

僕を大げさに紹介してくれている

 

 

林くんはさ、すごいの!リクルートで、一線級の働きをしていて

 

 

ピクッ、と根暗な子たちが

それまでゲームに目を向けつつも

明らかに僕たちの方へと関心のアンテナを張っていて

ゲームに対する罵詈雑言を交えてこちらを注視していたのに

その言葉を聞いた途端

下を向き黙った

 

俺がすごいにんげんだと認めたんだと思った

それがどのくらいすごいかは、この際考えるのはやめよう

 

 

ともかくそのフレーズを聞いた途端に

僕の立場は無言の間で優位に立ってしまう

 

この広場

西新宿にあるこの、広告代理店のひしめくタワービルの群れの中にぽつんと、それも青梅街道を奥に構えながらも

田舎のショッピングモールの駐車場の屋上にあるような

コンクリでできた空間に

隈さんは勝手にレストランをやっているのだ

 

その広さはなかなか広大でいて

さらにテーブルはノーベル賞の授与式のときの晩餐会を彷彿とさせる横長になっている

白いクロスで覆われたおしゃれなものだった

一つのテーブルに大体20人以上の席が空いていて

それがおおよそ4,5は、この空間を占有しているのだ

 

 

僕はここで目を覚ました

はっとすると既に先程のミーティングから4時間は寝ていたようだった

 

部屋の間取りをついさっきまでのものと照らし合わせてみると

確かに僕は左右反対になっている間取りを夢見ていたんだと理解した

ただ、ギターだけが同じ位置にあった。